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新型コロナウイルスが夏の流行期に入り、感染「第11波」が全国で本格化している。患者の急増に伴い、救急や医療機関の受け入れ態勢も次第に追い込まれつつある。新型コロナの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ5類に移行して以降、予防・治療面での国の財政支援が順次終了。経済的負担を避けるために受診を控えるケースも少なくないとみられ、症状の悪化や周囲に感染を広げる悪循環も指摘される。
全国約5千の医療機関から厚生労働省に報告された患者数は、今月14日までの1週間で5万5072人となり、1医療機関あたりでは『11・18人』と10週連続で増加した。さらに最近の酷暑による熱中症患者の増加も相まって、救急搬送が難しいケースも増えている。
消防庁によると、救急隊が医療機関への受入れ照会を4回以上行い、現場に30分以上滞在したケースは全国で15~21日に4105件発生し、前週比で16%増となった。
新変異株が猛威
大阪府内でも7月以降、感染者が急増しており、府医師会は25日、大阪市内で緊急シンポジウムを開催。医療機関の担当者らに向けて感染状況や第11波の特徴について報告した。
講師として出席した京都大大学院医学研究科の西浦博教授(衛生学)によると、東京都内では、冬に流行したオミクロン株の変異株「JN・1」から派生した「KP・3」が感染の主流に。今月1~7日時点で感染者の検体の9割近くを占めており、府内でも同様の状況にあるとみられる。
新たな変異株「KP・3」の流行により、これまでの感染やワクチンで獲得した免疫が働かず、感染者が増えているという。
経済負担増で受診控える人も
また感染拡大の背景として、3月末で国の一連の財政支援が終了し、予防や治療における患者自身の経済的負担が増したことも指摘される。
ワクチンは、定期接種対象の65歳以上の人や基礎疾患のある60~64歳の人以外が任意で接種する場合、1万5千円程度の負担が必要になる。治療薬は以前は最大9千円だった自己負担額が、3割負担で1万5千円~3万円程度にまで増えた。
府医師会によると、発熱などの症状があっても受診や治療薬の処方を避ける患者が目立ち、高齢の感染者が本人の希望により対症療法で経過観察していたところ、肺炎を起こしてしまったケースもあったという。
また、熱中症で発熱している患者であっても、コロナ感染の有無を調べるための抗原検査キットを使って調べる必要があるため、キットの在庫が減少。府医師会の中尾正俊会長は「医療機関が注文しても入荷がなく、さらに感染が拡大すれば、手当てができるか分からない」と懸念する。
今後、お盆休みに伴う帰省や旅行で、都市部の感染拡大地域から、地方にまで感染が広がる恐れもある。
西浦氏は従来通りのマスク着用や室内の換気を徹底するとともに、高齢者や基礎疾患を持つ人のワクチン接種の重要性を改めて強調。「帰省先の高齢者は、自然感染やワクチン接種から1年以上が経過している場合、再度のワクチン接種を考えてほしい」と呼び掛けている。
急激な気温上昇で免疫力低下
新型コロナウイルスの感染が全国的に広がる中、東京都内のクリニックでは7月上旬から発熱患者の受診が急増。今後のさらなる流行に備え、診察に当たる現場の医師に感染予防のポイントを聞いた。
いとう王子神谷内科外科クリニック(東京都北区)の伊藤博道院長(50)によると、今月4日に都内で猛暑日が観測されて以降、患者が急増した。クリニックには連日40~50人が発熱などの症状で来院。とりわけ30~60代に新型コロナ感染者が目立つ。
伊藤氏は感染が増加している原因について「気温の急激な上昇に身体が順応できず、免疫力が低下している」と指摘。新型コロナと熱中症の両方にかかり、重篤化するケースもみられるという。
冷房の使用で室内が換気されず空気が滞留していることや、冷気で鼻やのどの粘膜が乾燥し、バリア機能が低下していることも感染拡大の要因と見る。
伊藤氏は感染予防策として、帰宅直後の手洗いやうがいのほか、入浴で体に付いたウイルスを洗い流して疲労を癒やし、十分な睡眠や栄養バランスの取れた食事を心がけることが大事だと強調。外出時には人混みをなるべく避けるほか、せき込んでいる人が近くにいる場合にはマスクを着用することを推奨しており、「少しの行動変容で感染はある程度コントロールできる」と訴える。
筆者:山本考志、石橋明日佳(産経新聞)